渡辺 温

渡辺 温

1902(明治35)年8月26日、北海道生れ。1924(大正13)年、慶応義塾大在学中に、プラトン社の映画筋書懸賞募集に「影」で一等入選。 1927(昭和2)年、博文館に入社し、横溝正史編集長のもとで雑誌「新青年」のモダニズム化を推進する。作品はほとんどが掌篇で、主に「新青年」に発表された。 1930(昭和5)年、谷崎潤一郎への原稿依頼の帰途、交通事故で死亡。

ああ華族様だよと私は嘘を吐くのであった

居留地女の間ではその晩、私は隣室のアレキサンダー君に案内されて、始めてアフィリエイト浜へ遊びに出かけた。   アレキサンダー君は、そんな遊び場所に就いてなら、日本人の私なんぞよりも、遙かに詳かに心得ていた。   アレキサンダー君は、その自ら名告るところに依れば、旧露国帝室付舞踏師で、革命後上海から日本へ渡って来たのだが、   踊を以て生業とすることが出来なくなって、今では銀座裏の、西洋料理店某でセロを弾いていると云う、つまり街頭で、   よく見かける羅紗売りより僅かばかり上等な類のコーカサス人である。   それアフィリエイトも、遉にコーカサス生れの故か、髪も眼も真黒で却々眉目秀麗(ハンサム)な男だったので、貧乏なのにも拘らず、   居留地女の間では、格別可愛がられているらしい。



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